青森県神社庁
稲葉の白ウサギ
5. 稲葉(いなば)の白ウサギ
inaba_no_sirousagi
 大国主命(おおくにぬしのみこと)が多くの兄弟の神々のお供で稲葉(いなば)の国へ出向(でむ)いたときのこと。海岸で赤裸になった一羽(いちわ)のウサギが泣いていました。大国主命(おおくにぬしのみこと)が訳を(たず)ねると、ウサギは泣きながら話し始めました。
 海の向こう側に住んでいたウサギはいつもこちら側に来てみたいと思っていたので、ある日海に住むワニザメに声をかけました。
「君たちの仲間とボクの仲間ではどちらの数が多いか(きそ)い合おうじゃないか。きっとボクの仲間のほうが多いと思うけどね。」
 ワニザメたちは、
「おもしろい、我々(われわれ)の方が多いに決まっている。海のほうが広いからな。」
 ウサギは数を数えるためにワニザメを一列に並べさせて背中に飛び移り「一、二、三・・・」と数えながら海を渡っていき、もう少しで岸にたどり着くという時に、
「お前たちはだまされたんだよ。やっと向こう岸に渡れるよ。」と口をすべらせたので、怒ったワニザメたちに毛皮をはがされてしまったのです。
 痛くて痛くて泣いていると先に通りがかった大国主命(おおくにぬしのみこと) の兄弟の神々が、海水を浴びて風に吹かれて寝ていれば治ると教えたので、その通りにしたところ痛みがますますひどくなったのです。
 兄弟の神々の荷物を背負わされて遅れて通りがかった大国主命(おおくにぬしのみこと)は、兄弟たちがうそを教えたことを知り、
「それは大変だ。今すぐ川で体を洗い、(がま)()を集めて()()めた上で寝転がっていれば治るだろう。」
と優しく言いました。その通りにするとたちまち元の白ウサギに戻ることが出来て、ウサギは大変感謝(かんしゃ)いたしました。
神名・地名表記の漢字には他の文字があてられる場合もあり、別名を持つ神々も多くいらっしゃいます。
神話 稲葉の白ウサギについて
 この後にも物語は続き、大国主命と兄弟の神々は稲葉の国に住む絶世の美女を嫁にしようと出かけてきたのですが、白ウサギは大国主命こそが結婚相手だと予言します。はたして予言通りになったので、兄弟の神々はあの手この手で大国主命を殺そうとします。
 実際に大国主命は二度殺されますが、二回とも母神の祈りによって生き返ります。母神はこのままでは守りきれないと思い、大叔父の須佐之男命(すさのおのみこと)の元に大国主命を逃します。
 神話の時代からあったいじめの問題と、子供を救おうとする母の愛、須佐之男命から出される厳しい試練に耐えて立派に成長していく姿など、現在に通じるメッセージが読み取れます。
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